大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 平成6年(う)381号 判決

職権により原判決が認定した注意義務及び過失を調査するに,原審記録によれば,本件の原審段階における主位的訴因における注意義務と過失は,「被告人は,平成4年8月30日午前7時ころ,業務として普通乗用自動車を運転し,K市S町○○番地先の信号機により交通整理が行われている交差点をNg町方面からNk町方面に向け直進するに当たり,当時同交差点の対面信号機の表示は太陽光線の反射によって視認しにくい状況にあったのであるから,前方及びその左右を注視し,同交差点の対面信号機の信号表示に十分留意しこれにしたがって進行すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り,同交差点の対面信号機が赤色を表示していたのを看過して漫然時速約30キロメートルで進行した過失」というものであったこと,原審第7回,8回公判において,訴因の予備的追加が請求,許可され,その内容は,「被告人は,平成4年8月30日午前7時ころ,業務として普通乗用自動車を運転し,K市S町○○番地先の信号機により交通整理が行われている交差点をNg町方面からNk町方面に向け直進するに当たり,当時同交差点の対面信号機の表示は太陽光線の反射によってその表示を確認することが極めて困難で,しかも左方の見通しが困難であったのであるから,適宜減速徐行の上,前方及びその左右を注視し,進路前方の安全を確認して進行すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り,同交差点の対面信号機が青色を表示しているものと軽信し,進路前方の安全を確認しないまま,漫然時速約30キロメートルで進行した過失」というものであったことが,認められる。原判決は,主位的訴因を排斥して予備的訴因を認定し,その理由として,「事実認定の補足説明」の2項において,「・・・信号の色の表示の識別は車を進行させつつ瞬時に確認できるものでなければならず,その確認が極めて困難なほど視認しにくい状況にあれば,信号の色の表示を見過ごした点について被告人の過失(主位的訴因におけるそれを意味する。)を問うことはできない。・・・本件事故当時の被告人車両の対面信号は,太陽光線の反射によって交通整理の機能を果たし得ない状況であったから,このような交差点を通過する場合,自動車運転者としては交通整理の行われていない交差点を通過するときと同程度の注意義務を負うと解される。」としている。しかしながら,関係証拠によれば,本件当時本件交差点の被告人車両の対面信号機の表示は,太陽光線の反射,信号機自体がNk町方面に多少ずれていたこと,灯器が若干上向きになっていたことによって,視認しにくい状況にあり,そこへ同車両が時速約30キロメートルで本件交差点に接近しているが,瞬時には対面信号機の表示を確認できないものの,減速,徐行又は一時停止をして同信号機の表示に注意を払えば,その表示を確認できたことが認められる。信号機の表示は瞬時に確認できることが望ましいことはいうまでもないが,本件交差点は信号機により交通整理が行われており,交差道路の通行車両等が,その対面信号機の表示にしたがって本件交差点に進入してくることを考えれば,被告人車両においては,時間をかければ対面信号機の表示を確認することができたのであるから,減速,徐行又は一時停止してその表示を確認し,それにしたがって進行すべき業務上の注意義務があるというべきであり,被告人にはその注意義務に違反した過失がある。したがって,検察官が当審において変更した主位的訴因を認定するのが相当であり,被告人の業務上の注意義務と過失について,原判決は刑法211条前段の解釈適用を誤っており,その誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかであって,原判決は破棄を免れない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!